【書評】平山夢明『恐怖の構造』~平山夢明氏の才能が怖い~

 

恐怖の構造 (幻冬舎新書)

恐怖の構造 (幻冬舎新書)

 

半月ほど前に、平山夢明著『ダイナー』を読んだ。
最高の読書体験だった。だが、如何せんその内容のエグさ故、誰にでも気軽に薦められる本ではない。下手したら、自分の人格を疑われてしまう。エンタメとしての面白さとグロテスクさがもたらす嫌悪感。それらが何とか両立しうる、その絶妙なラインを『ダイナー』は攻めている。その危うさが、もう最高なのだ。『ダイナー』は既に漫画化されているし、近日中に映画化(主演:藤原竜也)もされるらしい。"映像化したら100%放送禁止になるほどのエグい描写"こそ、『ダイナー』の魅力なのに。炭酸の抜けたコーラの様な出来になるのがオチではないかと思う。

ダイナー (ポプラ文庫)

ダイナー (ポプラ文庫)

 

さて、この記事では、ホラー作家の平山夢明氏が、「恐怖」について語った『恐怖の構造』を紹介したい。

この本、最高である。

『ダイナー』と併せて、全人類に読んで頂きたい。よろしければ『独白するユニバーサル横メルカトル』も御一緒にどうぞ。

『恐怖の構造』の主題は、ずばり「恐怖とは何か?」ということ。氏の実体験や怪談、小説、ホラー映画を題材として、「恐怖」の正体を解体していく。

まず、氏が実際に遭遇した恐怖体験の話から始まる。
お稲荷さんに小便したら、その"祟り"で車にひかれ、挙句の果てには麻酔無しで骨から神経を剥がす羽目になった話。呪いの人形を貰ってから、周囲で人がやたら怪我したり、犬が死んだりする話。等々。
もう恐怖を通り越して、笑えるのだ。爆笑しながら読んだ。
とても実体験とは思えないから、「そんなのウソやろ!」と心の中でツッコミを入れながら読んだ。確か京極夏彦か誰かが、平山夢明は蛇口から水を出すように嘘をつく、とか何とか言っていた気がする。まさにそんな感じ。
あまりに笑い過ぎて、もうこの本、『恐怖の構造』じゃなくて、『笑いの構造』にした方がいいんじゃないか、と思いつつページをめくると、そこには、

笑いと恐怖
 とこのように僕が怪談を話すと、なぜか笑いが起きるんですよね。ライブなどで怖い話を披露しても、どうしたわけか客がドッカンドッカン爆笑してしまうんです。

(平山夢明『恐怖の構造』p34より引用

とあり、心を完全に見透かされたようで、非常に怖かった。

 

本書の中で、平山夢明氏は『ゴッドファーザー』や『エキソシスト』といった映画が、なぜ面白いのか、そしてなぜ怖いのかを分析している。中でも、私が面白く読んだのは、『羊たちの沈黙』の分析である。
平山氏は『羊たちの沈黙』に登場する二人の悪役、"ハンニバル・レクター博士"と"バッファロー・ビル"とを対比する。両者とも、"人殺し"であることには変わりないのに、なぜ前者は好かれ、後者は嫌悪されるのかを分析している。氏曰く、

 レクターは観客から好かれる傾向にあります。それは狂人だからです。対してビルは変態なので、誰も共感を抱かないんですよ。
 大衆って狂人が好きなんです。
(p85より引用) 

 変態のベースは過剰なナルシシズムなんです。彼らは自分の趣味嗜好から欠点、弱さまですべてを容認してしまう。それを他者に「こういう人間なので許してね、ごめんね」と強要し、請願していく。自己改革やタフネスとは無縁の理不尽な押しつけしかおこないません。
 ところが狂人は逆なんです。自分の望むことについてはなりふり構わず突き進み、障害となるものに対してはとことん闘っていく常軌を逸した力を持っている。そして、その障害のなかには自分の弱さも含むんです。おのれを克服するんです。
(p87より引用)

この「狂人⇔変態」理論は、本当に腑に落ちた。私自身、好きな悪役・ダークヒーローを思い浮かべてみると、『バットマン』のジョーカー、『ウォッチメン』のロールシャッハ、『MONSTER』のヨハン・リーベルト、『すべてがFになる』の真賀田四季、『PSYCHO-PASS』の槙島聖護......皆、この"狂人"に当てはまるのだ。人間は、そいつがどんなに悪い奴であろうと、"超人"には否応なく惹かれてしまうようだ。いやぁ、怖い。

あとは終盤の、作家志望者への言葉

重要なのは「書き手自身がどんなアンテナを張って、なにに気付くか」です。 才能のある人間というのは、何気ない日常の中でも圧倒的な量の情報を吸収します。

作家になるのは誰でもできます。ただ続けていけるかどうかはこのアンテナの感度の差です。なにかを見聞きしたとき「あ、これは使えるな」と拾えるかどうかなんです。板っきれのように暮らしている人間からは、板っきれみたいな話しか出てこないんですよ。

(p149より引用)

このあたりは、ブロガーにも言えることだろう。才能のあるブロガーならば、スタバでダベる女子大生の会話を拾って、バズを起こすことができるのだ。

以上、『恐怖の構造』の内容をいくつか紹介させて頂いた。怖いほど面白い本だ。そして何よりも怖いのは、著者である平山夢明の才能だ。